研究概要 |
我々はこれ迄,蛋白質の非天然構造の解明をめざして,分子モデリング解析法を開発してきた。大局構造を反映するX線散乱プロフィルなどの評価には,溶媒水の寄与の精密な取り込みが必須であるが,その手法の開発は未完である。そのため所期の目標を完全には達成していないが,以下の研究成果を得ている: (1) 解鎖(U)状態のコンホメーション生成におけるNMR情報の取り込み:天然蛋白質の原子座標データからアミノ酸残基の主・側鎖2面角分布に関する情報を抽出し,それらと多次元NMR法から得られる構造情報を組み合わせて,U状態鎖の構造モデルに対する候補コンホメーションを生成させると共に,これらに距離幾何学法を適用してコンホメーションを修正する手法を開発した。 (2) 変性(D)状態の構造解析: ジスルフィド結合のない蛋白質の,高濃度変性剤による変性状態は,分子鎖が溶媒に完全に露出した完全U状態で,またアルコール変性状態は,分断へリックスモデルで近似できる。一方,pH3以下での酸変性状態では,(a)揺動的に生成・消滅する局所的なα-へリックス型の規則構造と共に,(b)疎水相互作用などの非特異的な分子内長距離凝集効果の寄与が有意に存在する。 (4) “モルテン・グロビュル(MG)"状態の構造解析: 多くの蛋白質で見出されている平衡中間状態としてのMG状態は,当初のnaiveモデルでは説明できない。またN構造部とU構造部からなるとする,多部構造モデルで近似できるが,これとも有意に異なる構造を持つ。(a)N様構造部は分子鎖のコンパクト化により生成するが,これもN構造とは異なる。一方U様構造部も完全U鎖ではなく,(b)N,U様構造部間には非特異的な凝集力が存在し,(c)コンパクトな構造と広がった構造間で揺らいでいる可能性が強く示唆される。
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