研究概要 |
本課題では、タンパク質のアミノ酸配列と立体構造の相関関係を解明し、与えられた骨格構造にフォールドする新規タンパク質のアミノ酸配列を設計する一般的な方法を見いだすことを目的として研究を行った。設計のターゲットとして、マッコウクジラのミオグロビン(Mb)を選び、構造予測で用いられる構造一配列間の適合関数に基づいて、全長153残基からなる主鎖の骨格構造にフィットする人工アミノ酸配列を探索した。最終的に得られた配列は、計算上、分子量18.6kDa、等電点5.8、ターゲットとしたMbのアミノ酸配列に対して26%の一致を示し、グロビンファミリーでよく保存されているアミノ酸残基を保持していた。この配列をもつ人工グロビン遺伝子を合成し、大腸菌に導入して発現させ、目的とするタンパク質を得た。この人工グロビン(Designed Globin-1,DGl)は水溶性で、低タンパク質濃度・非変性条件下でモーノマーとして存在し、Mbと同程度のゲルろ過溶出容量および分析用超遠心における沈降係数を示した。円偏光2色性測定の結果、DGlのへリックス含量は61%と推定され、apoMbのヘリックス含量と一致した。X線小角散乱による構造解析の結果、DGlの回転半径(Rg)は、アポ体で20.6±0.6Å、ヘム結合型で19.5±0.5Åと決定され、天然のapoMbのRg値(19.7Å)とほぼ一致し、変性状態(36Å)や変性中間体であるモルテングロビュール(23Å)よりもコンパクトに折り畳まれていることがわかった。また、塩酸グアニジンを用いた変性実験を行ったところ、天然のapoMbと同程度の熱カ学的安定性(ΔG^<H_2O>=-3kcal/mol)を示した。さらに、DGlは1分子あたり1つのヘムを結合し(K_d=0.08μM)、天然のヘムタンパク質に共通した分光学的性質を示した。しかし、Mbにみられるような分子状酸素との結合能を持たず、NMR測定の結果、側鎖レベルでの構造の単一性を欠いていることが明らかになった。以上の結果は、我々が提案した方法が、球状タンパク質の分子設計に対して基本的に有効であるが、さらに、各構成アミノ酸の側鎖構造を考慮する必要があることを示す。今回得られた結果はまた、天然タジパク質のアミノ酸配列には、主鎖の骨格構造とともに側鎖構造もコードされており、それによって高度な生物学的機能が実現されていることを暗示する。
|