研究概要 |
出芽酵母のNps1Pはヌクレオソームのリモデリングを介して複数の遺伝子の転写調節に働くことが明らかにされたSWI/SNF複合体の主要サブユニットであるSnf2pと相同性を持つ分子量約160KのG2/M期の進行に必須な核蛋白である。我々は、RSCの機能解析を目的としてNPS1の温度感受性変異株を2株分離し、これらの株の解析により、Nps1pあるいはRSC複合体が、増殖に伴うセントロメア等の染色体の特定部位での染色体高次構造の形成・維持に働いている事を明らかにできた。しかし、Nps1pは核全体に存在することから、さらに広い機能を持つ事が予測される。今回、我々はNPS1の温度感受性変異をホモに持つ2倍体が胞子形成に欠損を持つことを見いだした。変異株では胞子形成前DNA合成も顕著に遅延していたことから、この欠損は減数分裂開始後のごく初期に起こっていることが解った。そこで、減数分裂初期に転写誘導を受ける遺伝子について、変異株での発現を解析した結果、最も初期に誘導される転写因子をコードするIME1の転写はほぼ正常に起こるものの、IME1で転写活性化を受けるIME2,SPO11.SPO13の転写が極めて低下していた。このうち、IME2はプロテインキナーゼをコードし、SPO11,SPO13転写を正に調節することが知られている。従って、変異株における減数分裂初期遺伝子群の転写量の低下には、IME2の転写の欠損が最も大きな影響を与えていると考えられた。そこで、IME2上流の切り詰めを行い、nps1変異によって転写誘導に低下の生じる配列の同定を行った。この結果、nps1変異は、転写因子Ime1pの作用配列であるURS1を介した活性化を低下させることが解った。URS1配列には、DNA結合蛋白であるUme6pが結合し、体細胞分裂時にはこれにコレプレッサーSin3p、ヒストン脱アセチル化酵素Rpd3pが結合しており、この配列は転写抑制配列として機能するが、減数分裂期にはUme6p上にIme1p.Rim11pが結合して転写活性化配列として働く。URS1配列は、減数分裂初期遺伝子以外にも、INO1を始めとする数種の遺伝子の転写抑制に働いている。そこでnps1変異がINO1の転写誘導にも作用するかを調べたが、野生型の場合と変化は認められなかった。我々は、NPS1遺伝子自身の転写も減数分裂開始のごく初期に活性化されることを見いだしており、上述の本遺伝子の機能は、減数分裂時に特異的なものであると考えられた。
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