研究概要 |
昆虫は、変態基に幼虫組織を排除し成虫組織を形成する。必要がなくなった幼虫組織は死に至るが、これはアポトーシスと呼ばれる能動的な死であると考えられている。このような細胞死の機構を解析することは、変態の機構を解明する上で重要と考える。ショウジョウバエにおける細胞死は胚発生期、さらに中枢神経系においては変態期、羽化直後に起こることが報告されている。これらの細胞死は変態ホルモンであるecdysteroidの生体内濃度の変化と発現しているecdysone受容体タイプが深く関わっている可能性が示唆されている(Robinow,et.al.,1993)。一方、ショウジョウバエにおいては突然変異系統の解析から、reaper,hid(head involution defective),grimという細胞死を誘導する遺伝子が単離されている(White,et.al.,1994;Grether,et.al.,1995;Chen,et.al.,1996)が、これらの遺伝子の発現がどのように制御されているかはまだ明らかではない。 本研究では、昆虫の変態における細胞死の機構を、樹立した細胞株をモデル系として用いて解析し、20-hydroxyecdysone(HE)による細胞死の制御、それに伴う細胞死誘導遺伝子の発現の変化を検討した。結果は以下に示す。(1)20-HEを加えると、胚由来細胞株S2に細胞死が誘導された。(2)20-HEを除去すると、幼虫中枢神経系由来細胞株BG2-c2に細胞死が誘導された。(3)20-HEは、少なくともreaper,hidの発現を制御する作用があることが明らかとなった。調べた細胞株においては20-HEはgrimの発現には影響を与えなかった。(4)20-HEによって誘導されるS2の細胞死では、reaper,hidが強く発現し、caspase-3様活性が上昇した。これは主にEcRBを介する可能性が考えられる。(5)20-HEで細胞死が誘導されないBG3-c2ではhidの発現が抑制され、主にEcR Aを介してる可能性が示唆された。(6)20-HE除去により細胞死が誘導されるBG2-c2では、EcR AとBが強く発現しており、20-HE除去により、EcR Aを介したhidの発現抑制が解除され、EcR AまたはBを介して発現していたreaperと共に細胞死が引き起こされるものと考えられる。
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