研究概要 |
本研究の目的は、カイコを用いて、変態や脱皮時の組織からcDNAライブラリーを作製し、そのシーケンスを決めることによって変態や脱皮に関与する遺伝子群を網羅し、かつ、それら遺伝子の発現様式を調べることにより、変態や脱皮に伴う成虫組織の形成機構、器官再生機構を分子生物学的に解明することである。平成10年度では、変態に伴う遺伝子発現パターンの変化を調べ、変態に関わる遺伝子を網羅するために、変態前後の4つのステージ(V-4,SO,S2,S3)の翅原基のcDNAライブラリーを比較した。S2期でエクジソン値が最大となり、蛹化が始まる。5令4日目(V-4)とSO期では翅形成の遺伝子発現はみられず、それ以外の様々な遺伝子が発現している.その中で、5種類のDNA修復遺伝子や幾つかのクロマチン構造形成に関わる遺伝子が見い出された。これらは変態開始直前の時期に特異的に発現しており、組織分化に伴うクロマチン構造の変化を示唆する。エクジソン値が最大のS2期ではUrbainやACE(angiotennsin convertingenzyme)の発現が特異的にみられる。その後、変態が進行するに従い、Tubulin,Keratin,Cuticle,Mucinなどの翅形成に必須の構造遺伝子の発現が極めて活発になる。UrbainやACEの発現と構造タンパク質遺伝子の発現が1日ずれていることは、変態ホルモンによる遺伝子活性化のカスケードを示唆するものである.また、翅原基の変態を通してユビキチンやユビキチン経路に関わる遺伝子のほとんどが発現しており、ユビキチン経路が変態過程に重要な役割を担っていることをあきらかにした。
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