研究概要 |
我々は,酵素分子活性中心の基質遷移状態のコンフォメーションを固定したミミックをデザインするという新しく論理的な方法を用いてキノスタチン(KNI)-272をはじめとする高活性高選択性阻害剤を合成することに成功した.この有用な方法を,細胞内およびウイルスプロテアーゼ阻害剤のデザインに応用し,基質遷移状態誘導体と酵素の相互作用の解析から阻害剤を分子設計し,それに基づいてペプチドミミックを合成し,メカニズムの明確なプロテアーゼ阻害剤開発の一般的方法論を確立することを本研究の目的とした.また本研究によってカテプシンDなどの細胞内ならびにウイルスプロテアーゼの蛋白分解反応の分子機構を解明をめざした. HIVプロテアーゼとその誘導体として,チオエーテル置換誘導体,ジスルフィド結合架橋により共有結合したダイマー酵素も合成した. 阻害剤は遷移状態誘導体の概念に基づいてプロテアーゼに特徴的な基質の切断部位Leu-ProおよびLeu-Val(Pl-Pl′)のアミド結合をイソステリックな還元型[CH_2-NH],ヒドロキシエチレン型[CHOH-CH_2],ジヒドロキシエチレン型[CHOH-CHOH]等に変換し,各基質遷移状態誘導体を合成した.また,阻害剤の低分子化も試みてジペプチド阻害剤も合成した. 合成した各種プロテアーゼ阻害剤の合成プロテアーゼ誘導体に対する活性を測定したところ,KNI-272や,抗HIV薬として認可されているサキナビル,リトナビル,インジナビルは,野生型酵素を阻害したが,合成酵素誘導体に対しては阻害作用が弱かった.一方,新規小分子型阻害剤KNI-241は,野生型,合成誘導体全てに対して強い阻害活性を示すという興味深い結果を得た.
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