研究概要 |
階層性を持つ音声時系列の認識と発生に関する双方向神経回路モデルが短期記憶を介して接続され,各々の時系列処理機能が他方の出力を教師信号として自己組織化されるという原理の妥当性を調べるために,まず時系列的情報の短期記憶モデルを構成してその基本的特性を解析した。 短期記憶モデルは,ラットの海馬でもその存在と重要性が確認されている抑制後リバウンド(PIR)発火による神経振動子の相互結合回路とし,個々の神経細胞にはHodqkin-Huxley方程式に基づくモデルを用いた。この神経振動子モデルは,興奮性シナプスによるインパルス遅延を用いる場合と比べて,発振周期が結合強度に大きく依存しないなどの特長がある。MOSトランジスタを用いた電子回路ニューロンでもリバウンド発火が生じることが確認された。 我々はこのモデルの基本的特性を理解するために,2個のPIR神経振動子を用意し,それを構成する合計4個のニューロンの間に弱い抑制性または興奮性の相互結合がある場合について調べ,PIRによる発火の時刻は発火前に加えられた弱い外乱刺激の時刻によって早まることも遅くなることもある,すなわち外乱刺激は,それが抑制性(興奮性)であっても時刻によって興奮性(抑制性)の働きをすることを明らかにした。 その結果,2個のPIR神経振動子の相互抑制結合回路は4種類の安定な引き込み状態を持ち,それらの各状態間の位相差は基本発振周期の1/4であり,N個のPIR神経振動子を弱い相互抑制で相互結合したモデルは,少なくとも4^N個の安定な引き込み状態を持つ。外部から与えられるアナログ的な初期発火時刻の空間パターン情報はモデルの離散的な状態の集合のうちのどれかによって表現されることになり,脳の短期記憶モデルに要求される写像の連続性を近似的に実現し易い。
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