研究概要 |
本年度は,海馬体で選択・抽出された情報を出力情報に変換する過程を明らかにするため,条件性場所学習課題(CPLT課題)に対するラット海馬体ニューロン,および海馬体(海馬台)の出力を受け,報酬獲得行動などの出力機構に関与している側坐核ニューロンの応答性を解析した。CPLT課題では,条件刺激として純音を呈示し,ラットはその直後にオープンフィールドの中央に位置する報酬領域に侵入することにより脳内自己刺激(ICSS)報酬を獲得できる。従って,CPLT課題では,ラットは条件刺激により報酬獲得を予測できる。その結果,海馬台および側坐核から合計15個のニューロン活動を記録し,これら海馬台および側坐核ニューロンはいずれも報酬応答性(ICSS報酬に依存した応答)および空間応答性を有していることが明らかになった。すなわち,これらのニューロンは,条件刺激呈示後,ラットがオープンフィールド中央に位置する報酬領域に移動するまでの報酬予告期間にその活動が変化(上昇,あるいは低下)し,報酬予測に関与していることが示唆された。また,空間応答性では,ラットがオープンフィールド内の特定の領域内を頭部を特定の方向に向けて移動しているときに活動が変化することが明らかになった。しかし,報酬および空間応答性を海馬体および側坐核間で比較すると,海馬体ニューロンでは,報酬よりは空間応答性が強く,逆に側坐核ニューロンでは,空間よりは報酬により強く関連して応答することが判明した。これらのことから,海馬体と側坐核ではともに報酬および空間情報が単一ニューロンレベルで再現されているが,その再現レベルに差があり,海馬体と側坐核には機能的差異が存在することが明らかになった。以上の結果は,海馬体から側坐核に至る経路において空間情報から報酬予告に関する情報に情報変換が行われていることを示唆する。
|