研究概要 |
神経回路で行なわれる情報処理の古典的な考え方(作業仮説)は,「情報処理がパルス頻度で行なわれ→結果の表現もパルス頻度で行なわれる」というものであった(「結果の表現」は「結果の解釈」ということもできる).時間情報(スパイク・タイミング)を使う可能性の中で,「情報処理→結果の表現」の流れに関して,次の3つの可能性を考えてみよう: 1. タイミング→タイミング 2. パルス頻度+タイミング→パルス頻度 3. パルス頻度+タイミング→パルス頻度+タイミング 1.は最も極端な考え方で,その意味で興味深いが,パルス頻度表現での「激しく発火しているから情報を表現しているのだろう」というような直感が働きにくいので,意味を理解するのが困難である.2.は脳の情報処理として最も現実的だろうが,問題設定としては困難すぎる.研究の足がかりとして最も適当なのは3.であろう.パルス頻度情報とタイミング情報が複合して,神経回路上にどのような活動パターンが現われ得るか,そしてそれが情報処理の観点からどのような意味を持つのかを調べることは有意義であろう.ニューロンの内部電位による単安定と双安定状態の遷移,そして双安定状態の2つの状態を微小な入力変動で制御できることは,タイミングとパルス頻度を橋渡しするための可能な機構として有力である.パルス頻度表現とスパイク・タイミング表現の単なる対応関係(等価性)以上のものを得ようとするならこの種の議論が不可欠である.
|