研究概要 |
新規抗マラリア薬の開発を目指して,鉄キレータの合成を行った。標的化合物として,ビブリオ菌が鉄イオンを獲得するために産生することが知られている,ビブリオフェリンを選んだ。しかし,ビブリオフェリンの立体構造には不明な点があった。そこで,この構造を明確にすることをも含めて本研究を実施した。 ビブリオフェリンは,ピロリジン部位,アラニン部位,エタノールアミン部位,およびクエン酸部位の4種の部位から構成され,三つの不斉炭素を有しているいるが,その中で,クエン酸部分の立体構造が不明であった。したがって,ビブリオフェリンを合成するためには,対応する光学的に純粋なクエン酸部分を合成することが重要な鍵となった。この問題に対して,クエン酸誘導体の光学分割に取り組み,それぞれを純粋に作り分けれることに成功した。それぞれを有機化学的手法を用いてビブリオフェリンおよびそのジアステレオマーに導いた。このうちの一方が天然のビブリオフェリンと一致したことから,ここにビブリオフェリンの全合成を達成することができた。また,鍵中間体である光学活性体の構造は,このものから文献既知の誘導体に導くことによってその絶対配貴を決定することができた。この結果,構造が未解決であったビブリオフェリンのクエン酸部位の絶対配置を明確にすることができた。本方法を利用すれば,鉄キレータであるビブリオフェリン誘導体を多種多岐にわたって合成することができることから,抗マラリア試験用のサンプルを供与できるものと考える。
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