研究概要 |
皮膚からの抗原の輸送機構を明らかにするために表皮あるいは真皮にのみ抗原が存在するマウスを作製し、他の抗原刺激や炎症反応を伴わない状態での抗原の移動について可視的な観察が可能な実験系を確立することを目的とした。 1) 色素細胞増多マウスの作製:マウスは成体では毛根を除いて色素細胞は存在しない。ヒトケラチン14遺伝子発現調節領域により制御される幹細胞因子(SLF)と肝細胞増殖因子(HGF)のトランスジェニックマウス(Tg)はSLF-Tgでは表皮にのみ、HGF-Tgでは真皮にのみ色素細胞の増殖が成体マウスにおいても観察された。どちらのマウスも皮膚炎症像は一切観察されず、リンパ器官では所属リンパ節のみ黒化していた。このことから表皮、真皮からの抗原は所属リンパ節にのみ輸送されることが明らかとなった。 2) 所属リンパ節における抗原の局在:SLF-Tgの皮膚所属リンパ節においては主にT細胞領域及び髄索に色素顆粒の集積を認めたが、皮膜直下にはほとんど認められなかった。一方、HGF-TgではT細胞領域、髄索に加えて皮膜直下にも色素顆粒の集積を観察した。この結果は表皮からと真皮からの抗原が異なる位置に輸送されることを示している。顆粒を取り込んでいる細胞はどちらのマウスもマクロファージとDEC-205,CD11c陽性の樹状細胞であった。 3) リンパ節欠損aly/alyマウスにおける皮膚抗原の所在:皮膚からの抗原がリンパ節欠損マウスにおいて何処に運ばれるのかを検討した。SLF-Tg-aly/aly,HGF-Tg-aly/alyマウスともに脾臓の白脾髄、赤脾髄、肝臓の類洞及び胆管周囲、肺臓ではaly/alyマウスに特有の単核球浸潤部位に観察された。以上の結果から、所属リンパ節を失った場合、抗原は血流にのって体全体に広がっていくことが示唆された。 現在、表皮ランゲルハンス細胞欠損TGF-β1遺伝子破壊マウス、マクロファージ減少opマウスとの掛け合わせを行っている。今後、これらのマウスを用いることで可視的な抗原提示の機構解析が生体レベルで可能となると考えられる。
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