研究概要 |
葉緑体の光合成機能発現の中心的プロセスは,核あるいは葉緑体ゲノムにコードされた光合成に関わるタンパク質の協調したチラコイド移行である。本研究では,まずタンパク質のチラコイド移行経路のうち,Sec依存型経路とΔpH依存型経路が,共通の膜透過チャネルを利用している可能性について検討した。チラコイド膜をスパンする形で膜透過反応が停止した中間体を生成することによりΔpH依存型経路を飽和したところ,ΔpH依存型経路の基質であるi23Kのチラコイドへの取り込みは阻害されたが,Sec依存型経路の基質であるi33Kのチラコイドへの取り込みは,全く阻害されなかった。したがってSec依存型経路とΔpH依存型経路は,異なる膜透過チャネルを使用しているものと考えられる。チラコイドへのタンパク質移行に関わるSec依存型経路とΔpH依存型経路は完全に独立しているのか,あるいは膜透過チャネルは共通して利用しているのかが,大きな問題であったが,今回の結果はこの問題に決着をつけるものである。 大腸菌のSecYの場合と同様,葉緑体SecYもSecAやSecEなどとチラコイド膜上で膜透過装置複合体を形成していることが期待されるが,この仮想的SecY複合体の実体は明らかでない。そこで,シロイヌナズナSecE遺伝子をクローニングし,塩基配列を決定した。in vitroで合成したSecE前駆体は,単離葉緑体に効率よく取り込まれ、葉緑体内でプロセシングを受けて成熟体となった。オルガネラ分画等の結果,成熟体SecEはチラコイド膜に内在性膜タンパク質として組込まれたことが分かった。シロイヌナズナSecEに対する抗体を用いた抗体染色により、エンドウ葉緑体のチラコイドにもSecEが存在することが明らかになった。
|