研究概要 |
以前我々は、抗癌剤の一種、シスプラチン投与のラット腎臓でHSP90の特異的発現誘導を報告した。その後の分子レベルでの詳細な研究の結果、シスプラチンはHSP90のC-末端部分と特異的に結合し、HSP90の二次構造変化を誘導し、結果としてin vitroでのHSP90のシャペロン活性をほぼ完全に抑制することを見い出した(Itoh,H.et al.投稿中)。 最近、HSP90にはN-末端領域以外に、C-末端領域にも独立したシャペロン活性発現領域が存在することが報告されており、哺乳動物のHSP90のシャペロン活性発現とその抑制機構の解析は急務である。HSP90のN-末端領域(ATP結合領域)にgeldanamycinが結合し、シャペロン活性が抑制されることが報告されているが、今回の我々の研究の結果、シスプラチンによるHSP90のシャペロン活性阻害は、全く別の機構によることが示唆された。 HSP60に関しては、従来mitochondriaに限局すると規定されていたHSP60が哺乳動物細胞ではcytoplasmにも存在し、生理機能は同一ではあるものの、シグナル配列の有無によりmitochondria typeとは区別されることなどを初めて明らかにした。また、HSP10もHSP60と同様に、cytoplasmにも存在することが確認できた。さらに、HSP90やHSP70は生体内で直接、又は間接的に免疫抑制剤と結合し、イムノフィリンとして機能することが報告されている。アフィニティーカラムを用いた実験の結果、免疫抑制剤のミゾリビンは、HSP60と特異的に結合し、従来報告のないHSP60もイムノフィリンの一種であることを初めて見い出した(Itoh,H.et al.投稿中)。
|