研究概要 |
真核生物の進化の比較的早い時期に分岐したと考えられる原生生物について、熱ショック蛋白質hsp70,hsp90、シャペロニンcpn60などの遺伝子解析を行なうとともに、これらを含むシャペロン関連分子種の分子進化学的解析を網羅的に実施し、真核生物内部でのシャペロン関連分子種の進化的変化についての総合的な知見を得ることを目的として研究を進めている。 本年度は、昨年度に引き続き、ミトコンドリアをもたない原生生物でMicrosporidia(微胞子虫類)に属するEncephalitozoon hellemおよびE.cuniculiのミトコどドリア型hsp70の遺伝子解析を行なった。さらに、同じくミトコンドリアをもたない原生生物Trichomonas vaginalisのhsp90の解析にも着手した。一方、これらのオリジナルデータを含む全てのシャペロン関連分子種のアライメント解析・分子系統樹解析を最新のデータセットに基づいて実施した。その結果、以下に示す新たな知見を得た。 1 ミトコンドリアをもたない4つの原生生物の分類群Diplomonads,Parabasalis,Entamoebidae,Microsporidiaのいずれもがミトコンドリア型のシャペロン関連遺伝子を有しており、ミトコンドリアを2次的に失ったと考えられる。同様の結論が、同じくミトコンドリア由来の遺伝子とされるヴァリン-tRNA合成酵素の解析からも支持される。 2 細胞質型hsp70の最新のデータセットに基づく解析から、昨年度遺伝子解析を行ったBlastocystishominisがStramenopiles(褐藻や珪藻などを含む分類群)に属することを明確に示すことができる。また、StramenopilesはAlveolata(ApicomplexaやCiliatesを含む分類群)と近縁であることが示唆される。これらは、SSUrRNAによる解析結果を支持しているが、真核生物全体の中での大きな分類群相互の系統的位置関係については、hsp70とSSU rRNAで大きく矛盾している。 3葉緑体進化の比較的早い段階、すなわちCyanophora paradoxaの葉緑体(cyanelle)の分岐の直後に、cpn60,cpn10,hsp70などの遺伝子が葉緑体コードから核コードへと移行した可能性が高い。
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