酵母を用いて、転写調節におけるRNA polymerase II(RNAPII)Mediatorと基本転写因子の作用機構について検討した。in vitroにおいて、Mediatorの構成タンパクの一つであるGal11は基本因子TFIIEと相互作用し、TFIIHによるCTD(carboxy-terminal domain of RNAPII)のリン酸化を制御することを明らかにした(J.Biol.Chem.273:9534:9538)。このCTDのリン酸化は転写の開始から伸長への重要なステップである。また、Gal11、TFIIE、Kin28(THIIHのCTDキナーゼサブユニット)遺伝子の変異株における様々な遺伝子の転写を調べ、これらの転写因子は幾つかの遺伝子の転写には必要ではないことを示した。非依存的遺伝子の構造を解析した結果、コアプロモーターの構造と転写調節因子の種類により非依存性が決定されることが示唆された。非依存的遺伝子の1つであるGAL80遺伝子は、転写開始点領域(イエシエーター)のみで正確な転写を行うことができる。そこで、イニシエーター依存的な転写制御機構について解析するため、イニシエーター結合タンパクの結合塩基配列の同定を行った。その結果、-2CACTN+3がイニシエーター活性およびタンパクとの結合に必要であることが明らかになった(BBRC255:157-163)。今後、このタンパク質とGal11、TFLLE、Kin28非依存的転写との関連を検討する必要がある。さらに、TFIIEとTFIIHの機能を解析するためにTFIIHと結合しないTFIIE変異株を作成した。この変異酵母では幾つかの遺伝子の転写開始点が野生株と異なっていた。これらの結果より、Gal11、TFIIE、TFIIHの相互作用は、CTDのリン酸化、従って転写開始から伸長への段階で重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの因子が必要ない遺伝子では、この移行のステップがどのように制御されているかについて検討することが今後の課題である。
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