研究概要 |
蛋白合成を止めるトキシンの中で,コリシンE5は大腸菌細胞内の特定のtRNAを切断する全く新しいヌクレアーゼであることを明らかにした.この酵素活性はコリシンE5のC末端ドメインE5-CRD(115アミノ酸)にあり,ColE5プラスミドを持つ生産菌は,コリシン遺伝子の下流の免疫性遺伝子(immE5)がインヒビターImmE5を合成することにより自殺を免れる.今回E5-CRD/ImmE5複合体及び各蛋白を精製し,N末端配列を決定したところ,immE5は旧来の想定より26コドン上流から始まり,ImmE5は108アミノ酸からなることを見出した. さらにE5-CRDは,大腸菌可溶性画分S-30に対してin vitroの蛋白合成を停止させるが,ポリ(U)依存ポリPhe合成で見たリボソーム機能を損なわないことを確認し,細胞内標的がリボソームでなく,アンチコドン1文字目にGの修飾塩基キューイン(Q)をもつTyr,His,Asn,Aspに対する合計5種のtRNA分子であるという先の推定を裏付けた.また生育中の大腸菌に,順次2倍希釈のコリシンE5を作用させてRNA画分を抽出し,各tRNAの3'末端側配列に相補的な合成DNAをプローブとしてノザン解析を行うことによって,細胞毒性と細胞内でのtRNAの切断の程度を比較したところ,両者に強い相関が見られ,これらのtRNA分子がコリシンE5の真の一次標的であることが判明した. このような特定のtRNAの特定の部位を標的とするコリシンE5は,“cytotoxic tRNase"として新しいトキシンのカテゴリーを導入した.またE5-CRDは他の蛋白との相同性が見いだせず,またリボヌクレアーゼの触媒作用にとって不可欠と思われてきたHisを分子中に持たないので,酵素としても新しいカテゴリーを形成する.
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