研究概要 |
本研究は,走化性運動,貪食など多様な細胞運動を行い,分子細胞生物学的解析に有利な細胞性粘菌より,新規のミオシン分子を検索してその分子・細胞レベルの機能を明らかにすることを目的としている。今年度は,昨年度に発見した新規ミオシンMyoKの解析を進めた。まず,MyoK遺伝子及びcDNAの全域をクローニングし,全塩基配列を決定した。推定されるアミノ酸配列から,MyoKは以下の特徴的な構造を持つことが明らかになった。第一に,MyoKは,モータードメインのloop-1領域に,これまでに見いだされたミオシンの中で最も長い142アミノ酸からなる挿入配列を持つ。この領域(GPR領域)は,極端にGlyとProに富むことから,ATP非感受性アクチン結合部位と予想されため,この配列をクラスIIミオシンの当該部位に挿入し,ATPase活性のアクチン濃度依存性を検討した結果,実際に,アクチンに対する親和性の上昇が見られた。今後,MyoKが,ATPaseサイクル中恒にアクチンと結合した状態で滑る可能性を検討する必要がある。第二に,MyoKは,軽鎖結合部位を形成するIQ配列を持たない。この特徴は,クラスXIVミオシン以外では初めて見られた。第三に,MyoKは,これまで見いだされたミオシンの中で最も短い尾部を持つ。この尾部は,正電荷に富み,細胞膜との相互作用が予想された。第四に,頭剖配列の系統樹から,MyoKは,クラスIミオシンに分類された。次に,MyoKの生理的機能を解析した。Northernブロッティングより,MyoKの転写は,発生開始2時間後に一過的に増加することがわかった。さらに,相同組換えを利用してMyoK欠損株を作成したが,少なくとも生育,発生には影響は出なかった。以上より,MyoKは,細胞性粘菌の他のクラスIミオシンと重複した生理的機能を持ち,発生段階のごく初期に働くものと予想された。
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