研究概要 |
細胞運動の多くは,モーター蛋白質が起こす滑り運動を原動力とする.滑り運動は,化学エネルギーを機械的エネルギーに変換することにより起こるが,このときモーター蛋白質がどのように力を発生し,力発生がどのように制御される結果,細胞の運動につながるかについては明らかにされていない.本研究では,ウニ精子鞭毛におけるダイニンに着目し,その分子レベルの機能を,新しい生理学的アプローチを用いて,制御機構との関連のもとに解明することを目指した.滑りの制御機構はin vitro系では普通失われてしまう.本研究の代表者は,エラスターゼを用いることにより,ある程度制御機構を保持したままで滑り運動を起こさせる系を開発した.そこで,この系を応用することにより,上記目的を達成することを目指した.鞭毛膜を抽出後断片化した軸糸をcagedATPとともにチェンバーに入れ,エラスターゼ処理後顕微鏡下で,UV-flashによりcagedATPを光分解して滑りを起こさせダブレット微小管1本になるようにした.このダブレットに重合微小管にビーズをつけたもの作用させ,再び光分解によりATPを放出させてダイニンによる力の発生を光ピンセット法にnm計測の技術を組み合わせて測定した.その結果,ダイニン1個の腕あたり約6pNの力発生があることが解った.この力発生に伴い,力の振動が観察され,その振動は0.75mM ATP付近では約72HzでATP濃度の低下とともに減少した.ダブレット上のダイニンのうちの外腕を抽出しない腕のみにした場合にも測定を行った.その結果,やはり1分子あたり約6pNの力を発生し,力の振動も見られた.したがって,ダイニン1分子の振動は少なくとも内腕によってい引き起こされるらしいことがわかった.
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