研究概要 |
本研究では,パーキンソン病(PD)の責任病巣である中脳黒質において変性ドーパミン作動性ニューロンおよびその関連組織がどのような遺伝子発現動態を示すかを分子インデックス法を用いて包括的に把握するとともに,PDの病態に関与する未知の病態関連遺伝子(分子)を同定することを目的とした.病理解剖により得られたPD患者および非神経疾患患者の中脳黒質組織より抽出したtotal RNAをもとにmRNAのcDNAを作成し,分子インデックス法によって合計192×3=576グループの発現遺伝子3'側プロファイルに区分した.現在までに576グループのうち1/3(192)のプロファイルを作成した.PD黒質より得られたプロファイルを各グループ毎に対照例黒質由来のプロファイルと比較検討し,発現量に明らかな差の見られたcDNA断片をクローニングし,その塩基配列を決定した.PDおよび対照間で発現に大きく変化のあったcDNA断片として27クローンを得ることができ,そのうち24クローンの配列を決定した.PD特異的に発現が変化していた既知の分子9クローン(増加3,減少6),データベース検索で既知のESTにマッチしたcDNA断片が8クローン(増加3,減少5),全く未知のcDNA断片が7クローン(増加4,減少3)であった.現在残り2/3のプロファイルの作成を急いでおり,定量PCR・ノーザン分析による正確なPDでの発現量の変化を検討中である.これらの遺伝子群の発現変化はPDの黒質における分子レベルの病態を反映していると考えられ,しかもそのいくつかはPDの病態機序を解明する上で重要な鍵となる分子である可能性がある.またこの結果は,分子インデックス法による遺伝子発現プロファイリングがPDの剖検中脳黒質における遺伝子発現変化を既知,未知を問わず高感度に描出する有用な方法であることを示している.
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