研究概要 |
サルで一側脚橋被蓋核(Pedunculopontine tegmental nucleus,PPN)のカイニン酸微量注入による選択的破壊によって,反対側の上下肢の屈曲位と寡動すなわちヘミパーキンソニズムを作製し,組織化学的に破壊部位を同定し,PPNアセチルコリンニューロンの脱落を確認した.黒質緻密部のドパミンニューロンは組織化学的によく保たれていた(平成9年度,報告).従って,この実験系におけるサルのヘミパーキンソニズムは,PPN-PPNニューロンは黒質緻密部のドパミンニューロンへのほとんど唯一の興奮性入力であるーの破壊によりその興奮性入力が遮断された黒質線条体ドパミンニューロンが活動の減弱を来したため,と考えられる.そこで,ラットで行なってきたin vivo voltammetry法をサルに適用し,以下の実験を行なった. ニホンザルを,ケタラール麻酔下に脳定位装置に固定し,in vivo voltammetry用の記録電極(直径7μmの炭素線維を3本束ね,pullerで引いたガラス管に通し,先端より500μm露出させた物)を左右の被殻内に挿入し,参照電極(Ag/AgCl)と修飾電極(ステンレスねじ)を硬膜上に置き,合わせてセメント固定し,1ヶ月以上経ってからPPN破壊実験を行ない,ドパミンの放出変化を,破壊直前と破壊後とで比較した.ドパミンは,150mVから250mVに電圧を上昇させたときの電流変化をドパミンの濃度とし,DOPACとは100倍以上の濃度差で分離測定でき,セロトニンの存在はドパミンの電流値に影響を与えないことを確認した.2頭のサルで線条体内ドパミンの持続的記録に成功した.サルは記録電極留置後,3週間して記録を開始し,1週間に1,2回の記録を1ヶ月持続し,1側PPNの破壊後,2日して記録を再開した.PPN破壊直前の値を基準値として,直後に一過性の上昇を示し,その後に下降した.1頭につき3ヶ月間以上の持続的記録を達成した. サルを用いて線条体内ドパミン放出量の変化を持続的に記録した初めてのデータである.
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