研究概要 |
赤芽球系造血細胞の増殖と分化を調節するエリスロポエチン(Epo)の受容体は,JAK2等のチロシンキナーゼの活性化を介してSTAT5やRas/MAPキナーゼ経路の活性化をもたらすことが明らかにされてきたが,JAK2以外のチロシンキナーゼとしてSrcファミリーのLynにつき検討を行い,このチロシンキナーゼがSH2領域等を介して細胞内でEpo受容体と結合し,Epo受容体自身やSTAT5のチロシンリン酸化を誘導し,さらにはSTAT5のDNAへの結合やその標的遺伝子の転写の活性化をも誘導しうることを示した(Chin H.et al,Blood 91:3734-3745,1998)。また,Epo受容体によりチロシンリン酸かを受ける事を以前に報告したCrkLに関して検討を行い,CrkLはEpo等のサイト力イン受容体によるRas・Raf-1・MEX・Erk経路を介してElk-1の活性化とc-fos遺伝子の発現誘導に至るシグナル伝達経路の活性化に関与しうることを見出した。この経路の活性化は,CrkLのSH2領域およびC3Gとの結合に必要なN末端側SH3領域のみが関与し,cdc25領域を欠失したC3Gにより抑制された事より,CrkL/C3G複合体がCrkLのSH2領域を介して活性化されたサイトカイン受容体複合体に結合することで細胞膜に動員されることによるものと考えられる(Nosaka Y.et al,submitted for publication)。さらに,CrkLの機能に付き検討を行い,CrkLの過剰発現にてVLA-4およびVLA-5を介したFibronectinへの細胞接着が亢進することを見出した。細胞接着の亢進はCrkLに結合したC3GのGEF活性を介して生じることが,C3Gとの結合に必要なSH3領域を欠失したCrkLや,cdc25領域を欠失したC3Gの発現により,細胞接着が抑制されることより示された。以上の結果より,CrkLはC3Gを介して,Ras/MAPキナーゼ経路とは別のシグナル伝達系路を活性化し,インテグリンの活性化による細胞接着亢進をもたらすことが示唆された(Arai A.et al,Blood,inpress)。
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