研究概要 |
サイトカイン依存性アポトーシス制御システムの解明は当研究室の中心的研究課題であって、長年にわたり多くの研究室との共同研究で継続的に検討を進めているものである。本年度は特に幹細胞・未分化造血前駆細胞に焦点をあて、実験系の作成を試みた。国内外の、幼弱な造血細胞由来であるとされている細胞株を集めて実験系の構築を試みたが、不首尾に終わった。そこで、骨髄初代培養細胞を直接分析に用いることを検討した。従来の方法では10^5個オーダーの細胞数を得るのが限界であり、細胞生物学的および分子生物学的な分析に必要な、10^6個オーダーの細胞が確保できないことが難点であった。この問題を解決するために、骨髄初代培養に用いるサイトカインの組合わせと濃度、無血清培養液の組成を最適化するとともに、細胞純化法についても改良を重ねた結果、マウス10匹から10^7個オーダーの未分化造血前駆細胞(c-Kit^+,Lin^<lo/->)、50万個程度の初期未分化前駆細胞(Scal^+,c-Kit^+,Lin^<lo/->)の単離に成功した。そこで正常マウスと、共同研究者の本田浩章博士らが樹立したCMLを必発するBcr-Ablトランスジェニックマウスを用いて、未分化前駆細胞の細胞動態の分析を行った。その結果、初期未分化前駆細胞(Scal^+)はサイトカイン欠乏下で細胞分裂が停止し、分化することなく速やかにアポトーシスに陥る。後期の前駆細胞では、サイトカイン欠乏時に多くの細胞がアポトーシスを逃れ成熟細胞まで分化する。このことから、初期の未分化細胞では、サイトカインによる造血量の調節が行われている可能性が示唆された。一方、Bcr-Ablマウス由来の初期骨髄未分化細胞も速やかに細胞周期が停止するが、一部の細胞はアポトーシスを逃れて成熟した顆粒球や単球にまで分化する。この現象はCML発症機序の少なくともひとつの側面を示すものと考えられた。このような細胞生物学的な振舞いを規定する分子レベルの検討が、次年度の課題である。
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