研究概要 |
最終年度にあたり,これまでの過去2年間の研究成果を踏まえて,微結晶・微粒子の内部構造,電子構造,光学特性における特有のサイズ効果を明らかにするとともに,材料化についても検討を加えた.その結果,当初の目的・目標をおおむね達成できた.以下に,最終年度の研究成果を中心とした概要を述べる.マイクロ波照射を併用した再沈法の確立により,単分散性に優れたサイズ制御された有機微結晶の作製が可能となった.この微結晶を用いて,励起子吸収・発光スペクトルのサイズ・温度効果を詳細に調べた結果,励起子と微結晶格子のフォノンとの相互作用が重要な鍵であることが判明した.特に,励起子吸収線幅の温度依存性が,微結晶においても豊沢理論に従うことを始めて確認した.また,静電吸着法により微結晶累積薄膜の作製が可能となり,非線形光学感受率の向上が図られた.この手法の応用展開として,金属微粒子と微結晶とのへテロ系交互累積薄膜の作製,金属微粒子分散液への再沈操作(共沈法)による微結晶に金属微粒子が包摂されたハイブリッド化微結晶の作製にも成功した.一方,イオントラップに捕捉されたマイクロメートルサイズの液滴から溶媒が蒸発して固体微粒子になると,できた固体微粒子は一般に不規則なかたちをもち,干渉はあまり有効な手段でなくなり,かわって発光スペクトルが主な情報源になる.この方法によって通常の結晶構造をもった結晶ではなく,準安定の結晶構造をもった微結晶が出現することを見出した.例えばクマリン153結晶は通常,510nmに極大をもつ蛍光スペクトルを示すが,エレクトロスプレーで吹いた液滴からは530nmに極大をもつ蛍光を示す微結晶が析出することを明らかにした.材料化の試みとしては,極性微結晶分散系において,かなり低い電場の印加にも拘わらず,巨大な双極子モーメントを有する極性微結晶は配向制御し,分散系全体の透過率変化が確認された.この分散系は液体と結晶の性質を兼ね備える「液・晶」系として新規な物質系と見なすことができる。さらに,微粒子の光機能材料化を目的とし,人工光合成モデル分子であるオリゴチオフェン-C_<60>結合分子を微粒子化し,その光誘起電荷分離過程をフェムト秒過渡吸収測定により検討した.再沈法により生成した約100nm径の微粒子にフェムト秒レーザーを用いて励起すると電荷分離状態が1ピコ秒以内で生成することが確認された.このような非常に早い電荷分離は微粒子内での分子間電子移動に起因すると考えられる.一方,電荷再結合は2段階であり,電荷の微粒子内におけるマイグレーションに起因する長寿命成分は34nsの寿命を示した.この結果は微粒子内の結晶構造にその電荷分離再結合過程が大きく依存することを示すものである.
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