本研究は、組織内の昇進の仕組みとキャリア形成に関する日米比較を行うことを目的とする。分析により明らかになった主要な日米比較に関する論点をまとめると以下のようになる。まず組織内の昇進のメカニズムに関しては、組織内の動機付けの仕組みと管理職要請、選抜のメカニズムに関して、理論的に考えられる選抜モデルを構築し、それらが日米企業内における実際の選抜過程をどの程度説明できるかを検証した。ここで取り上げたモデルは「遅い選抜モデル」「トーナメントモデル」「庇護移動モデル」「競争移動モデル」「入り口での選抜モデル」などである。日本では「遅い選抜モデル」が支持されるのに対して、アメリカでは入社後早い段階から選抜が行われている。さらに、入社後の第1次選抜からすでに「昇進競争に参加できない有能でないと判断された」少数の社員が選抜され、別のトラックにおかれる。これらの社員はその後の第2次、第3次の選抜においても一貫して選抜競争で不利な立場におかれている。このような少数の社員の「入り口での選抜」が日米企業ともに見られる。それ以外の社員に関しては、「競争移動モデル」が予測するように、早い時期での選抜の遅れをその後の選抜で取り戻すことができるリターンマッチの可能性が日米企業ともに見られる。さらに学歴と昇進パターンの関連に関する日米比較の分析では、出身大学のランクと大学で学んだ専門分野が、企業に入社後の昇進確率にどのような影響を与えているのかを検討した。日米双方の組織において出身大学ランクや専門分野は、社員の能力を測るシグナルとして用いられている可能性があると同時にランクの高い大学出身者は知的能力や仕事への取り組みの意識などが高いため昇進する確率が高いことが示唆された。このように組織内選抜のモデルに関しても、学歴の昇進に与える影饗に関しても、日米の壁はかなりの類似性が存在することが確認された。
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