研究概要 |
金融・資本市場において信用リスクがどのように評価され,価格付けされているかを明らかにするために,仁科は資産価格決定の基礎理論を厳密に検討した.また,実際の市場における信用リスク評価の典型例として,債券の格付けシステムを理論的に分析した.その結果,信用リスクの評価理論モデルは,少なくとも現在の水準では未完成の部分が多いことと,ファクター構造を利用したモデルが有望であること,ならびに債券の格付けがそれらに反映する可能性があることが判明した. 不確実性のもとでの意思決定問題の代表である投資意思決定問題を研究課題として,田畑はインデックス・ファンドの効率的な構成法とその性質について研究を行い,定性的な性質とその性質を利用した構成手順を開発した.とくに,遺伝アルゴリズムを用いて計算の効率化をはかった点と,株価という情報が逐次入手できる状況で,ベイズ理論を用いて逐次的に改定される構成法を導出した. 大西はPoisson過程に従いジャンプをする幾何Brown運動に対する最適停止問題を精察した.この種の問題に対して,マルチンゲール論からのアプローチを試みることにより,ある弱い条件のもとでSmooth Pasting Techniqueと呼ばれる手法の正当性を示した.また,これに関連して,幾何Brown運動のインパルス・コントロールの基礎理論ついての研究を開始した.とりわけ,企業の最適配当政策の問題,投資信託におけるキャッシュ・マネージメントの問題,等への応用について,モデル化からそれらの解析的・数値的解法に至るまでのプロセスにおける様々な段階に関して,詳細に渡っての検討を試みた. 谷川は,信用リスクが顕在化し企業が債務不履行に陥った場合,具体的な債務の形態によってコーポーレート・ガバナンス上は違いが出ることに注目し,特に経営者の事後的なモラルハザードとの関連を分析した(2000a).また,債務不履行の前触れである手元流動性の不足-株式や現金の需要が,転換社債の転換と密接に関連していることを実証した(1999).証券取引の執行リスクという側面を持つ,株式指値注文の執行確率の推定を行った(2000b). 金融市場において観測されるデータは,統計理論や数理ファイナンスの分野で確立された理論が前提としている状況にはないことが多い.大屋は,本研究では実際に確認される欠損値の存在を前提とした統計的推測に関する考察を行った.欠損値を生み出す固有の情報が特定できない場合に関して,従来の統計量ではバイアスが生じることをパネルデータをもちいる際の検定統計量に関して明らかにしている.
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