研究概要 |
多重ゼータ値は,リーマンゼータ関数の正の整数点での値を素朴に一般化した対象であるが,その素朴な定義からは想像しがたい様々な数学と関係する重要な対象である.とりわけ,現在興味を持たれているのは,インデックスの異なる多重ゼータ値間の関係式の在り方である.これについて,「導分予想」という予想を定式化し,それの特別な場合の解決を経て,最終年度に,一般的に証明した.その証明により,この「導分関係式」は従来知られていた「大野の関係式」と実質同等のものであることが分かり,その理解に新しい道を拓いた.また,「正規化複シャッフル予想」という関係式の予想を定式化し,導分関係式をこの複シャッフル予想に結び付けて理解しうる式を予想,それを支持する特別な関係式を証明し,また計算実験を行った. 多重ゼータ値に指標をつけて一般化した多重L値について,反復積分表示,それを用いて得られる関係式,また3,4を法とする特別な場合について,いくつかの関係式の予想を,計算実験をもとにたてた.ある場合は最近証明された. 以前の研究において定義した多重ベルヌーイ数(古典的ベルヌーイ数の多重対数級数を用いた一般化)について,さらにその性質を調べ,クラウゼン・フォンシュタウト型の定理や,負のインデックスを持つ場合の明示公式などを証明した.ある種の多重ゼータ関数を導入,その解析接続を示し,いくつかの性質を調べた.この関数は,正の整数点で多重ゼータ値,負の整数点に多重ベルヌーイ数が現れるもので,応用として多重ゼータ値の間の代数関係式が多数得られる.もと,多重ゼータ関数の負整数点での値についての秋山茂樹,谷川好男の研究で発見された,古典的ベルヌーイ数の計算に関する興味深いアルゴリズムに,固有の証明を与えた.
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