研究概要 |
本研究の目的は,密度波の動的性質,特に,並進運動(スライディング)による非線形電気伝導および関連する現象に量子効果の特徴が明確に現れているかどうかを明らかにすることである.量子効果は電荷密度波に比較して有効質量の小さなスピン密度波に現れやすいと期待されるので,スピン密度波の典型物質であるベチガード塩(TMTSF)_2AsF_6を用いて非線形電気伝導度と過渡的電圧振動を測定した.常圧では試料の冷却時に微細クラックが発生し電流経路が乱れるため,高圧セルを用い,わずかに加圧した.密度波位相の垂直方向のゆらぎの影響を避けるため,位相相関長の垂直成分よりも細い試料(断面積が約200μm^2以下)を用いた. 約0.6K以上の温度領域における非線形伝導度から,スライディングしきい電場は約100V/cmと,太い試料に比較して約1桁大きく,その温度依存性も転移温度付近まで温度によらず一定であり,太い試料とは著しく異なることを見いだした.電圧振動数から求めたピン止め波長は密度波の波長から期待される値に近く,断面にわたり一様にスライディングすることが明らかである.以上の結果から,量子効果の存在を判定するには,さらに低温が必要であると結論される.また,さらに細い試料を使用するのが有効であると判断されるが,扱うテクニックの開発が今後の課題として残された. 新しい伝導性錯体(TMDSA)塩について同様の測定を行った.低温で非線形伝導を観測したが,定量的には試料依存性が強く,結晶成長条件の制御が今後の課題として残された.
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