研究概要 |
この研究の目的は,これまで可能性が指摘されるだけに留まっていた,積雲対流による慣性重力波の生成,ならびに慣性重力波による積雲対流の組織化について,亜熱帯域(日本国内)あるいは熱帯域(インドネシアおよびタイ)における観測や既存観測データ収集を行うことによって研究することであった. これまでの一点観測では経時変化と空間変化が分離しにくかったことを考慮し,可搬型GPSレーウィンゾンデ装置を導入し,固定大気レーダーの存在する滋賀県信楽町などの周辺に投入した.また本研究グループがこれまで亜熱帯〜熱帯域において実施あるいはデータ収集してきた,境界層レーダー観測,レーウィンゾンデ観測,地上気象観測のデータと,気象庁の官署観測や客観解析のデータとを総合的に解析し,慣性重力波・積雲対流の両方,および背景風の気候学的振舞に関する知見を得た.またデータ解析に用いる計算機設備を充実させ,時間・鉛直に関する単色波解析,スペクトル解析などを用い,慣性重力波の波動要素を次々と求め,次いでそれらを季節・高度(・緯度・経度)の関数として整理するとともに,気象庁等の観測資料を入手し,積雲対流や各種低気圧など対流圏内の気象現象の活動度,背景大気の大循環の変動を同様の関数として整理した. 以上の研究から,まず技術的には通常のレーウィンゾンデ観測結果からも大気重力波が検出できることを,MUレーダーとの比較による入念な検討から示し,それを気象庁定常高層気象データに適用して日本列島における重力波活動度の季節・水平分布を解析した.特に東日本の地形に起因すると見られる重力波が,冬季成層圏に活動の極大を持ち,さらに日々あるいは経年変動を持つこともわかった.またレーダー・レーウィンゾンデ同時観測によって,信楽の梅雨季の対流性降水雲とその周囲の微細構造,インドネシアのスルポン・ビアク・ブキティンギでの数日〜10日程度の周期の波動と対流性降水雲の間に密接な関連を見出した.このような重力波活動度,積雲活動度,大循環の連動は,準2年周期の経年変動にも認められた.
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