研究概要 |
今年度は(1)3種類の現生ウミシダの発達段階の骨格形成の走査型電子顕微鏡による観察.(2)古生代末〜中生代初期に起こったと推定される有関節亜綱の急速な進化の実態を化石記録に基づき明らかにする,の2点を中心に研究を行った. 相模湾東部,小網代湾に生息するニッポンウミシダ(Oxycomanthus japonicus)を採集し,10月の産卵,受精後の個体発生を追跡した.また,石川県能登島周辺に生息するウミシダのうち,トゲバネウミシダ(Antedon serrata),トラフウミシダ(Decametra tigrina)のペンタクリノイド段階の個体の観察も行った.その結果, 1.ニッポンウミシダにおいて初めて肛門板(anal plate)の存在が明らかになった.これは狭腔中亜目では初めて確認されたものである.肛門板は古生代のウミュリ3綱に限らず,中生代以降のウミュリにも,少なくとも発生段階では観察されると考えられ,関節亜綱を特徴づける独特の形質とは見なすのは困難である. 2.ニッポンウミシダ,トゲバネウミシダ,トラフウミシダのいずれにおいても,ペンタクリノイド段階の茎の関節はsynarthryのタイプの関節である事が分かった.従来の他の有関節亜綱のペンタクリノイド段階のデータを考慮すると,有関節亜綱を特徴づける形質として,ペンタクリノイド段階でsynarthryを持つことが共有派生形質としてふさわしいと考えられる. 3.茎板の数は,おそらくシストイド段階で増加するが,その後ペンタクリノイド段階ではほぼ一定で,おのおのの茎板が伸長する事によって茎が伸びることが分かった. さらに,二畳紀末から三畳紀初頭のウミュリのデータを文献,ならびに東北日本,アメリカネバダ州のサンプルなどから得て,検討した結果,以下のことが明らかになった. 4.腕の関節に靭関節の数が急激に減少し,さらに残された靭関節が自切する能力を獲得するようになった.このことが有関節亜綱のその後の成功に深い関係がある.
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