研究概要 |
ケイ素は周期律表において炭素の直下に存在する14族元素であることから、有機化学の中心的元素である炭素をケイ素に置き換えた化合物は非常に興味深い研究対象である。特に、有機化学における最も基本的な化合物の一つであるベンゼンのケイ素類縁体シラベンゼンについては極低温マトリックス中での分光学的検出は行われていたものの、安定に合成された例はなかった。本研究では、以前の我々の研究で実現された2-シラナフタレンの合成の経験をふまえ、ケイ素上にのみ置換基を持つシラベンゼンの合成を行った。シラべンゼンを速度論的に安定化するための立体保護基として2,4,6-トリス[ビス(トリメチルシリル)メチル]フェニル基(Tbt基)を用いた。ペンタ-1,4-ジインとジブチルスズの反応でスタナシクロヘキサ-1,-4ジエンを合成し、それをシラベンゼンの前駆体であるケイ素上にTbt基とクロロ基を持つシラシクロヘキサジエンに導き、ついでジイソプロピルアミドで脱塩化水素することにより初めて安定なシラベンゼンの合成に成功した。このシラベンゼンは、^<29>SiNMR(92.5ppm)、^1J_<Si-C>(83Hz)、UV(301,323,331nm)から非局在化した芳香族性を持つ化合物であることが明らかとなった。この結論は、X線結晶解析でTbt置換シラベンゼンがほぼ完全に対称であることからも支持された。Si=Cは結合長1.765Åと1.770Åで通常のケイ素-炭素二重結合と単結合の中間であり、C-C結合長は1.381-1.399ÅでほぼベンゼンのC-C結合長と同じであった。得られたシランゼンゼンは光照射によりシラベンズバレンに異性化し、シラベンズバレンは熱によりシラベンゼンに戻るという極めて興味深い反応性を示した。 ゜
|