研究概要 |
当該研究期間において,マンガンや銅などの多数の多核金属錯体を合成しその結晶構造を明らかにした。二核マンガン(II)錯体〔Mn(Ph_2MeCCOO)(phen)_2〕_2(PF_6)_2のメタノール溶液は暗所で安定で変化しないが,太陽光もしくは紫外線ランプによる紫外光を数時間照射することで光誘起による集積化反応が起こり〔Mn_2(O)(Ph_2MeCCOO)_2(phen)_2〕_2(PF_6)_2の組成で表される四核マンガン錯体を生じることを明らかにし,二核マンガン(II,III)錯体がμ_3-オキソイオン架橋で二量化した混合原子価マンガン四核錯体であることをX線結晶構造解析により確かめた。また,架橋可能な配位原子を末端に有する三座キレート配位子を用いることで,Cubane型を有する種々の四核銅(II)錯体を合成した。これらの錯体は溶液中においても固体状態の5配位状態が保持されるため,電気化学的な活性は非常低いが,光照射によりメタノール溶液中では配位子中の2級アミン部位のイミンへの酸化が促進され、配位構造の再配列を促し積層型Cubane四核コア構造へとそれぞれ変化することが見出された。また錯体ユニットを拡張していく試みとして,コハク酸のような分子内に2つのカルボキシラト基を有する分子を多核ユニット間架橋配位子として用いた四核銅(II)錯体〔Cu_2(NO_3)(L)(phen)_2(CH_3OH)〕_2(NO_3)_2(L=コハク酸,グルタル酸)を合成した。この錯体は二核銅(II)ユニットが炭素鎖で連結された構造であり,それぞれの二核ユニットはphenのスタッキングにより構造が安定化されていると考えられる。ユニット内銅イオン間の反強磁性的相互作用は-22cm^<-1>程度であり,通常のビスμ-カルボキシラト二核銅(II)錯体に比べ弱い。さらにユニット間の磁気的相互作用は無視できる程度に小さく,結果としてディスクリートな二核モデルとして磁性の解釈が可能であることが示された。
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