研究概要 |
四種の新規フレームワーク(メタロシクロフン、ダブルデッカー、W型サンドイッチ、多層構造)を有する芳香族化合物Ag(I)π錯体超分子の合成に始めて成功した。ここではもっとも注目される新規化合物であるメタロシクロフンについて述べる。[2,2]paracyclophaneではベンゼン環は立体障害のために外側に大きく曲がっているが、面間距離は最大3.12Åと極めて近く、ドナーとして作用する。このため興味ある物性を示す種々の芳香環シクロファンがこれまで合成されてきた。我々は2,3-benztriphenylene(btp)及びtriphenylene(tph)を用いて、メタロシクロファン{[Ag(btp)(ClO_4)](1)と[Ag(tph)(ClO_4)](2)}の合成に初めて成功した。1について述べると、2分子のbtpが2コのAgにη^2様式で架橋配位しシクロファン構造を形成しており、Agはさらに、ClO_4^-のO原子で架橋され、メタロシクロファンが1次元に繋がった構造をとっている。2においても、2個のAgが2分子のtphとそれぞれη^2様式で架橋配位したメタロシクロファン構造であり、ClO_4^-により架橋された1次元鎖構造を形成している。これらメタロシクロファンの特徴は、[2,2]paracyclophaneでは2つのベンゼン環はお互いに立体障害のため環の外側へ歪んでいるが、メタロシクロファンのbtp及びtph分子は、逆に内側に反っていることである。全く新しいタイプのシクロファン化合物群が構築できた。1のbtpの分子間距離は、1次元鎖内と1次元鎖間距離はそれぞれ3.64Åと3.48Åであり、どちらにおいてもπ-π相互作用により、カラム状の芳香環スタッキングが形成されている。このため半導体の電気伝導度を示したことは注目される。
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