研究概要 |
当初の研究計画では,近年注目されている"複雑系"を狭義に捉え,(1)相互作用が非線型である,(2)非平衡系を形成している,(3)秩序・無秩序性を内包していると対象を限定した上で,しかも中性子散乱実験や熱容量測定によって検知できるトンネル現象をプローブとした動的構造の研究を目指した.具体的には,トンネル現象が関与した同位体誘起相転移や乱れ,ガラスや準結晶に見られる特異な乱れと低エネルギー励起に研究対象は及んだ. この間に整備したのは超低温度生成のための「ヘリウム希釈冷凍機」であった.また,この温度域での精密温度測定に不可欠な「交流抵抗ブリッジ」を新規に導入した.これらを用いて「超低温域熱容量測定用の熱量計」を完成させた.一方,中性子散乱については国内では高エネルギー加速器研究機構,国外ではフランス・グルノーブルのラウエ・ランジュバン研究所およびイギリスのラザフォード研究所に出向いて実験を実施した. 本研究の最終年度では"複雑系"をより広義に捉えることによって,今後の展開を模索する作業を行った.本研究を遂行する過程での思いがけない収穫は,「界面で誘起される秩序と複雑性」という,吸着単分子膜を対象とした今後の研究方針を明確にできたことであった.幸運にも継続的な研究費補助のお陰で,研究手法として熱容量測定,中性子散乱,X線回折,分子動力学計算に習熟することができた.また,"複雑系"を対象にするには"相"と捉えて研究する以外に,"分子"レベルで研究する立場が不可欠で,両者の相補的な研究が必要であることが認識できた.本研究で得られた成果を今後の研究に是非生かしたいと考える次第である.
|