研究概要 |
高等植物の液胞は,貯蔵器官にみられるタンパク質蓄積型液胞と栄養器官の分解型液胞の2つに大別されている.両液胞は明確に区別されているにも関わらず,相互に変換が起こっている.この液胞の相互変換機構を解析するために,脂肪性種子のタンパク質蓄積型液胞に特異的に出現する膜タンパク質MP73の構造解析及び生合成の機構を解析した.MP73は,登熟期の中期に種子のタンパク質蓄積型液胞膜に集積されるが,種子の発芽期には、タンパク質蓄積型液胞が分解型液胞へ転換するのと並行して,消失していく.成熟型MP73ドメインの後半はGlu/Arg richの繰り返し配列が存在し,架橋実験から,MP73は液胞膜上で未知の分子と複合体を形成していることが分かった. タンパク質蓄積型液胞へのタンパク質の細胞内輸送に関与する小胞の単離に成功し,PAC(Precursor-Accumulating)小胞と命名した.PAC小胞の解析から,新規の液胞タンパク質の細胞内輸送の経路が見つかった.これまで植物の液胞タンパク質は粗面小胞体で合成された後に,ゴルジ体を経て液胞へ輸送されると考えられてきたが,本研究から,ゴジル体を経由しない経路の存在が明らかになった.また,このPAC小胞依存的な経路を栄養器官の細胞において誘導させることにも成功した. 小胞輸送によって運ばれる液胞タンパク質の前駆体を成熟型に変換する酵素の実体を解明し,液胞プロセシング酵素(VPE,Vacuolar processing enzyme)と命名した.その後,高等植物には,貯蔵器官型と栄養器官型のVPE homologuesが存在すること及び,それぞれが,タンパク質蓄積型液胞と分解型液胞で機能していることを明らかにした.前者のVPEは,貯蔵タンパク質の成熟化や生体防御因子の一つであるTrypsin inhibitorの活性化を担っていることを示し,一方,後者のVPEは,細胞死,ストレス,過敏感反応などにより誘導される分解酵素やPRタンパク質の活性化に関与している可能性を示した.以上の結果は,高等植物の分化した液胞はそれぞれの液胞機能タンパク質の活性発現系を有すること,及び液胞機能分子の細胞内輸送のための新規の輸送系を発達させていることを示している.
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