研究概要 |
ボルトとナットを使用したねじ締結体は最も使用頻度の高い機械要素の一つであるにもかかわらず,それが重要保安部品に使用されているねじであっても,いつかは必ず緩む.製造物に対するPL法が導入された現在では,緩まないねじを早急に開発することは工業界の切実な要請である.著者らはこれまでにステップロックボルト(SLB)と呼ぶつるまき線が階段状になった特殊なねじ形状を開発し,このSLBでは初期ゆるみ後はボルトとナットは相対回転をしないことを明らかにしてきた.平成10年度および11年度では,これまで試作しテストしてきたボルトの諸元を最適化するために理論的基盤の構築と実験による確認,転造法による製作および性能の評価を行った.得られた知見の概要を以下にまとめる. (1)有限要素法を使ってねじ締結体のゆるみの要因を調べた結果,ゆるみの原因は主にねじのフランク面の最大傾斜線に沿ったボルトとナットの相対的なすべりであることが明らかになった. (2)上記の作業はまだ続行中であるが,ねじのゆるみの原因がある程度特定できたので,任意の呼び径のSLBを設計できることとなった.そこで,新たに決定された諸元をもつSLBの転造用ダイスを製作するための最適な工具を設計し,これを日電精密(株)で製作した.この工具を使って本研究室のマシニングセンターでダイスを切削加工し,これを(株)青山製作所で熱処理し,本研究室で検査し形状を確認した後,同社の転造機によってSLBを製作した. (3)一方,揺動型ゆるみ試験機(平成7年度に完成)において,締め付けトルクの変動を記録し,ゆるみ過程を観察するために,新たに独自のトルクと計とビジョン・モニタリング・システムを開発した. (4)以上の準備を経たうえで,本学およびねじの専門メーカーである(株)青山製作所で本開発になるSLBの耐ゆるみ特性を測定した.その結果,一般のねじや細目ねじはいくら慎重に締め付けても500回以上の揺動には耐えられずに弛んでしまうのに対して,このSLBは5,000回の揺動にも耐えることを実証することができた. (5)SLBの製作方法,SLBの性能,通常のねじとの比較などを4編の論文にまとめ,国際的Journalや国際会議で発表することができた.
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