研究概要 |
本年度は,まず前年度に提案した音場再生システムによる聴取者の両耳音圧の再生精度を詳細に解析した.その結果,実用に即した条件において,-20dB程度の誤差レベルで再生が可能であることが明らかとなった.この成果は,昨年10月に開催された西太平洋地区音響学会議で発表した. また,提案システムにおいて用いられる室内伝達関数,頭部伝達関数の情報を,大きく劣化させることなく効率的に符号化するための手法について検討した.具体的には,NTTの羽田らによって提案された共通極・零モデルの適用を試み,さらに,このモデルによって,任意方向の頭部伝達関数の合成(補間)の可能性を検討した.その結果,共通極・零モデルで推定される極めて少数のパラメータによって,聴取者を取り囲む全方向の頭部伝達関数を精密に合成できる可能性が示された.これは,羽田らによっても十分に示されていなかったもので,本研究の遂行によって得られた知見である. 提案システムは,音源から聴取者までの音響伝達系を精密に合成するアプローチで構成されるものである.しかし,最終的には,聴取者が両耳に到達する音によって知覚する3次元音空間を合成できなければ,本研究の目的は達成できない.この観点から,本研究では,特に頭部回転による音像定位への影響について,詳細な検討を行った.具体的には,聴取者の頭部回転を磁気センサにより検出し,両耳位置と音源との相対的な位置関係の変化から,両耳に与える音信号を,仮想的に,リアルタイムで変化させるシステムを作成した.まず,頭部の回転と,それにともなって音像の移動が遅延なく行われていることを確認した上で,種々の刺激音を用いて,方向定位における頭部回転の効果を考察した.その結果,高い周波数成分を優勢に含む刺激音については,十分な頭部回転により定位精度が大きく改善すること,低い周波数成分は,頭部回転を考慮した頭外定位を実現する上で重要であること,頭部を回転しない場合に頻繁に生じる前後方向誤りが著しく減少し,正確な方向定位がなされることが明らかになった.この部分の基礎的検討については,昨年3月の日本音響学会にて発表しているが,詳細な検討結果については,今後発表を行うべく準備を進めている.
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