研究概要 |
本研究では,プラズマCVD法を用いたはっ水性薄膜合成プロセスにおいて,作製膜表面のモルフォロジーと化学結合状態を厳密に制御する手法を確立し,可視光に対して無色透明で,かつ硬質な超はっ水性薄膜を,低温で大面積にわたり作製する技術を開発することを目的とした. 高周波プラズマCVD装置とフーリエ変換赤外吸収分析装置(FTIR)を組み合わせ,入射角80度の赤外反射吸収分光法(IRRAS)によって,成膜中に赤外吸収スペクトルのその場観察を行うことに成功した.特に,基板表面に対して垂直な電場振動を持つp偏光を用いることによって高感度測定ができ,単分子膜レベルの超薄膜に対する吸収スペクトルを得ることができるようになった.これにより,化学結合状態をリアルタイムで制御しながら,成膜を行う技術を確立した. これまで,有機シリコン原料に酸素ガスを混合して成膜すると,膜の硬質化は図れる一方,親水性のSi-OH基が形成されるため,超はっ水性は得られないと考えられてきたが,さまざまな圧力範囲で成膜を行った結果,全圧150〜200Paの比較的高い圧力範囲において,酸素ガスを混合しても超はっ水性が実現できることを発見した.これにより,硬質な超はっ水性薄膜の形成が期待できる.Si-OH基が存在するにも関わらず超はっ水性を示す理由は明らかでなく,今後,解明すべき興味深い研究テーマである. 環境制御型電子顕微鏡を用いて,作製膜のはっ水特性を観察した結果,水滴接触角測定装置において観察されるマクロな水滴だけでなく,μmオーダーの微小水滴も,接触角が150度以上の超はっ水状態にあることがわかった.
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