研究概要 |
強誘電性を示すP(VDF-TrFE)(フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体)の単結晶状膜(SCF)は圧電・焦電・電気光学素子としての可能性をもつとともに,膜全体が双晶または単結晶に近い構造をもつので,結晶性高分子の諸問題,特に結晶配向秩序形成,結晶高次構造,結晶相転移,分子鎖の運動,機能物性の発現機構などの諸問題を研究するのに最も適している.本研究ではこの観点から,X線回折,SEM,TEM,DSC,圧電共振,誘電緩和,ブリルアン散乱,NMRなど,種々の研究手段を用いてSCFに関わるこれらの問題を総合的に研究した.また機能素子としての応用も検討した.得られた主な成果は次の通りである.(1)SCFのc軸,およびa,b軸の配向秩序の形成は常誘電相で起こり,時間とともに向上する.また,結晶中の鎖配列の乱れが,時間とともに解消する.欠陥構造をなくしたSCFの弾性率は10Kで最大204GPaとなった.分子鎖の理論弾性率に近い.(2)分子鎖方向と垂直方向の緩和強度と緩和時間,これらの方向に変位をもつ横波音速の異方性,X線散漫散乱,NMRスピン格子緩和時間の温度依存性から,常誘電相における分子鎖の運動が明らかになった.常誘電相でのSCFは分子鎖方向には液体的であり,垂直方向には固体的に振る舞う液晶であること,TGTG′分子鎖は規則的に配列した格子上で隣接鎖とは相関なく束縛回転と,回転を介してTGTG′連鎖がflip-flop運動を行なうこと,相転移はflip-flop運動するTGTG′の連鎖長が長くなることによって誘起されることが分かった.この描像はP(VDF/TrFE)の相転移に対する従来の考えを改めるものである.(3)圧電高分子ではじめて横波超音波送受波子を開発した.無機圧電セラミックを用いた横波超音波送受波子よりも高性能であり,実用可能である.また,大きい電気光学効果をもつことが示された.(5)上記の他にも,P()VDF/TrFE)/at-PMMAブレンドの相溶性,結晶欠陥,強誘電相における運動などについて多くの知見を得た.単結晶状膜は単に機能性材料としてだけでなく,固体高分子の基本的な問題を研究するのに有用なモデル材料である.
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