研究概要 |
野生植物が栽培化されるとき,一番顕著な変化は野生状態では種子が脱粒性をもつが,栽培化されると脱粒性を失い,非脱粒性となることである。ソバの脱粒性・非脱粒性はただ1個の遺伝子(Sht-sht)によって支配されており,ソバの野生祖先種Fagopyrum esculentum ssp.ancestraleは優性ホモSht/Shtであり,栽培種は劣性ホモsht/shtで非脱粒性であることが判明した。野生祖先種の集団は他家授精をしており,この栽培形質である非脱粒性遺伝子を集団内に極めてまれ(最も高頻度の四川省塩源県集団で3%)に保有されており,この非脱粒性遺伝子が栽培化の過程で利用されたのではなかろうか。ソバに近縁なもうひとつの野生植物F.homotropicumは自殖性故により容易に栽培化が起こったのではないかと思われるが,この種の野生集団は非脱粒性遺伝子を全く持たず,従って栽培化の機会がなかったと考えられる。 ソバの栽培の起原地は野生祖先種の自生地域のうちの何処であるかを明らかにする目的で,中国四川省,雲南省,チベットの野生祖先種8集団,栽培ソバ6在来品種,F.homotropicum5集団について,各集団から2-3個体を任意に選びAFLP分析を行った。得られた101箇の有効なバンドからNJ法により系統樹を描き,類縁関係を解析した。その結果チベットの野生祖先種集団が栽培ソバにもっとも近縁であることが分かった。ダッタンソバでもその栽培の起原地の候補として東チベットが考えられており,金沙江,蘭倉江,怒江が南北に流れるチベット東部,雲南省西北部は栽培ソバ,ダッタンソバのみならず野生ソバの分化の中心地として今後深く調査,研究せねばならない。
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