研究概要 |
産業上重要な次の3種類の菌株について,エネルギー代謝に関わるH^+-ATPaseに着目した微生物機能の解析と応用について検討し,以下の結果を得た.以下の一連の検討は,エネルギー代謝の操作が微生物機能の新しい改変を可能にすることを示している. 1.大腸菌:野生株から取得したF_1-ATPase活性欠損株を最少培地で連続培養して調製した生理学的に均一な細胞について,中枢代謝を検討した.欠損株では解糖系酵素活性は上昇,TCAサイクル関連酵素活性は低下し,呼吸鎖の成分であるNADHデヒドロゲナーゼの活性は増大した.大腸菌のゲノム情報に基づき,2次元電気泳動により発現タンパク質のプロテオーム変動解析を行い,F_1-ATPase欠損変異株においては細胞成分が質的に作り変えられていることを明らかにした. 2.コリネ型グルタミン酸生産菌:Corynebacterium glutamicumのH^+-ATPase活性低下変異株の発酵経過を調べた.変異株では菌体当たりの糖消費量が増大していること,また,グルタミン酸はほとんど生産されなくなり,代わりにピルビン酸,アラニン,乳酸の生成量が増加することを見出した.H^+-ATPase遺伝子のクローニングを行い,完全長の遺伝子を得た.本遣伝子を大腸菌-コリネバクテリウムシャトルベクターに連結し,C.glutamicum野生株の形質転換を行った.その結果,形質転換体のH^+-ATPase活性は野生株の約2.7倍に上昇した. 3.乳酸菌:チーズスターター乳酸菌Lactococcus lactisにおいて,H^+-ATPase活性の低下は酸性感受性を与え,細胞内pHの恒常性維持にH^+-ATPaseが深く関わることが明らかになった.本菌のH^+-ATPaseオペロン全遺伝子をクローニングした.
|