研究概要 |
アルツハイマー病(以下AD)はアミロイド・ベーター蛋白(以下Aβ)が蓄積し,神経細胞の脱落に至る疾患であることが知られている.従来より,アルミニウムやトロンビンの蓄積が様々なAD関連細胞障害を惹起するのではないかと推測されてきたが,詳細は不明であった.最近,細胞内に存在するERAB(endoplasmic-reticulum-associated binding protein)蛋白がAβに直接結合し得る分子として新たに同定され,ERABはAβによる細胞毒性を亢進させることが示された.平成10年度は,我々は、アルミニウムとERAB蛋白の関連性を明らかにする目的で、GOTO細胞(神経芽細胞腫由来)の培養液に硫酸アルミニウムを添加する実験を行った。今回のGOTO細胞の培養にあたっては細胞突起を伸長させる無血清培養液を使用した。ERAB mRNAについては、対照群(金属無添加群)、硫酸アルミニウム添加群(500μM)で発現量に差を認めなかった。従って、アルミニウムがERAB mRNA発現増加を介してアルツハイマー病発症に関与する可能性は否定された。平成11年度はトロンビン,アミロイド前駆体蛋白(APP),ERABの関係を明らかにする目的で,トロンビン受容体を直接的に活性化するペプチド,TRAP(thrombin receptor activating peptide)の添加実験を行った.GOTO細胞を,TRAP(100μM)を添加した無血清培地下で12時間培養したところ,APPについては3倍以上の増加を認めたが,ERABについては変化を認めなかった.従って,TRAPはAPPを誘導するが,ERABを誘導しないことが明らかになった.結論として,アルミニウムやトロンビンが様々なAD関連細胞障害を惹起するにせよ,それはERAB誘導を介するものではないことが明らかになった.
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