研究概要 |
本研究の目的は、甘味糖質を用いた特定保健用食品をはじめその生理機能を強調した加工食品をどのように摂取すれば、弊害を生じることなく期待する生理作用を効果的に発現して健康づくりに活用できるかを明らかにすることである。このため、食品素材として用いる甘味糖質の一過性下痢に対する最大無作用量(許容量)、腸内環境改善のための最小有効量、甘味糖質の一括摂取と分割摂取、摂取慣れなどの食べ方による許容量の変化、甘味糖質含有食品の単独摂取と組み合わせ摂取による許容量の変化などを明らかにするために研究を進めてきた。本研究課題における研究成果は以下の通りである。人を対象とした研究によってトレハロース(Treh)、ラクチュロース(Lactu)、ガラクトシルスクロース(GAS)の一過性下痢に対する最大無作用量を明らかにし(JNutr.Sci.Vitaminol.44:787-798,1998)、GASを分割摂取すると、許容量が一括摂取時の許容量の2倍程度のなることから、許容量が分割摂取によって増加することを実験的に示した(栄養・食糧学会誌、52:201-208,1999)。さらに、ラクチトール(Lacti)およびキシリトール(Xy1)の最大無作用量を測定するとともに、Lacti含有チョコレートを1日1箱(56g)10日間摂取させることによって最大無作用量は約1.5倍に増加することを明らかにし、難消化吸収性甘味糖質の摂取馴れによって許容量が有意に高くなることを提示した(発表予定)。このLacti含有チョコレート単独摂取では下痢は誘発されないが、ポリデキストロース含有飲料(1本,120ml)との組み合わせ摂取によって下痢を誘発する者が20%以上出現し、難消化吸収性糖質含有食品の組み合わせ摂取に留意することの必要性を明らかにした(発表予定)。一方、非消化性のLactuを対照にしてTrehの最大無作用量から小腸トレハラーゼ活性を推定したところ、日本人に小腸トレハラーゼ活性の高い者と低い者とがいることが判明し、トレハラーゼ活性の低い者はTreh摂取によるインスリン分泌刺激の弱いことが判明した(Eur.j.Clin.Nutr.,54:783-788,2000)。一方、各種難消化吸収性甘味糖質を健常人に摂取させ、投与量と呼気水素ガス排出量の関係ならびにその経時的な変化を詳細に観察して、糖質の消化吸収性と発酵性、大腸への到達時間などを比較・検討してきた。その結果、エリスリトール(ERT)、Xyl、ソルビトール(Sol)摂取時の呼気水素ガス排出量は小腸からの吸収性を反映してSolで最も多く、次がXylで、摂取量の90%以上が吸収されるERTはほとんど水素ガスを排出しなかった。また、二糖類アルコールであるマルチトールとLactiはSolに比べて呼気水素ガス排出量は明らかに多かった。さらに、Galsおよびイソマルトオリゴ糖(IMO)は腸内細菌を介して大腸内環境を良好な状態にする働きがあるとして加工食品に用いられているが、人に摂取させると呼気水素ガス排出量は非消化性のフラクトオリゴ糖に比べて顕著に少なく、IMOに至ってはほとんど検出されず、かなり消化されることが明らかになった。
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