研究概要 |
【目的】窒息死を診断するための客観的方法・指標がないのが現実である。そのため、窒息死、特に遷延性窒息死のための、解剖所見以外の客観的指標が求められてきた。その目的のために低酸素状態において発現が誘導される遺伝子、ならびにその遺伝子産物(蛋白質)に着目し、それらを指標に用いて、窒息特に遷延性窒息の診断を試みることを目的として実験を行った。その中で種々の予備実験から血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に注目してヒト臓器組織について検討した。 【方法】20例の剖検例の臓器(脳,肝,腎,心,肺)中のVEGF値は前処置後,VEGFイムノアッセイキット(R&D system,USA)およびmicro plate rcader(Immuno Rcader NJ-2000 Inter Med,Japan)を用いて測定した。なお,対照としてHep3B細胞を用いた。 【結果】各種臓器の内,肝,腎,肺では死後,VEGF値は死後急激に増大し,約20時間後にピークに達した。その後は臓器差は認められるものの,同様に急激に減少し,36時間後からはほぼ平坦になった。一方,脳については,測定点が少ないため,ハッキリしないが,約40時間後にピークに達した後,じょじょに減少し,約72時間後からはほぼ平坦になった。なお,24時間までの死後経過時間と各臓器のVEGF値との関係を調べた所,肝,腎,肺,脳で正の高い相関性(R2=0.780〜0.897)を示した。しかし,心については相関しなかった。 【考察と結論】死後経過時間の推定はは法医学の分野のみならず,医学の分野においても大変重要な課題である。現在までに幾つかの報告があるが,それぞれ問題点(例えば誤差範囲が広い,例数が少ない等)がある。生化学的な指標として,VEGF値を測定した。その結果,死後20時間までは直線的に増加し,その後急激に減少するが,この減少は,タンパクの分解などが関係しているものと考えられる。1日前後の短時間の死後経過時間の推定には肺,腎が特に有用であった。以上の結果から,VEGF測定法は初期の死後経過時間推定法として有用であると考えられる。
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