研究概要 |
ケモカインは数十種類のファミリー遺伝子から構成され,複数のサイトカイン・ケモカインの組み合わせによりリンパ球の遊走や活性化状態が調節される.多発性硬化症(MS)の中枢神経組織では免疫担当細胞の機能が変調していると考えられるので,MS病態におけるケモカインシグナル伝達系の変化について解析した.MS再発時の血液中および髄液中のTリンパ球におけるケモカイン受容体発現を検討し,CD4+T細胞ではTh1ケモカイン受容体発現が末梢血および髄液で増加していることを明らかにした.特にCCR1の発現が末梢血に比して髄液で著明に増加しており,CCR1を介するCD4+細胞の活性化がMSの病態に重要と考えられた.CCR3を受容体とするeotaxin血中濃度がMS再発直後よりも治療後に増加していた事は極めて興味深い.CCR3はTh2ケモカイン受容体であり,治療後の血中eotaxinの増加はMS再発時にTh1へと傾斜したT細胞バランスが補正されつつある事を反映している可能性がある.血中eotaxinの変動はeotaxinとCCR3を共有するRANTESなど他のケモカインの作用が修飾されていることも意味しており,MSの再発とTh1/Th2バランス観点から今後の検討が必要である.なお,RANTES,MIP1α,MIP1β,IL-8の血中・髄液中の濃度は対照群との間で有意差は無かった.血管内皮細胞障害(活性化)に関与するplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)血中濃度がMS再発時に一過性に増加する事も明らかにした.本研究によりMS再発におけるケモカインの重要性が示され,ケモカインシグナルの制御によるMS治療が期待される.
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