研究概要 |
先天性免疫不全症のうち比較的多くを占めるX連鎖性無ガンマグロブリン血症(XLA)は,末梢血B細胞の欠如と血清免疫グロブリンの著しい低下を示し,母親からの移行抗体の消失する乳児期早期より重症細菌感染を繰り返す.1993年,その責任遺伝子がB細胞の活性化や初期分化に関与するBruton's tyrosine kinase(Btk)であることが判明し,Btk遺伝子変異解析によりXLAの患者診断や保因者診断が世界的に行われている.本研究では,臨床的に有用なフローサイトメトリー法による簡易診断を開発し,Btk遺伝子変異解析を併用することにより,本国におけるXLAの分布及び臨床的多様性を明らかにするとともに,XLAにおけるB細胞初期分化障害のBtk変異の意義について検討し,以下の結果を得た. 1)単球におけるBtkの発現を指標に,抗Btk単クローン抗体を用いたフローサイトメトリー法により,XLA患者及び保因者を迅速かつ容易に診断可能であることを明らかにした. 2)フローサイトメトリーによる簡易診断と遺伝子解析の併用により新たに65家系のXLAを同定し,全国において約100例のXLA家系を確認した. 3)正常に近い血清IgGを示すばあいや成人期に発症する非典型例のあることが分かった. 4)原発性免疫不全症候群登録の検討から,家族歴がないばあいにCVIDとして扱われている症例が相当数あり,注意を要することを明らかにした. 5)代替軽鎖VreB単クローン抗体を用い,XLAの骨髄におけるB前駆細胞の分布様式を検討し,XLAでpro-B細胞からpre-B細胞への移行段階で分化障害が存在することを初めて明らかにした. 6)XLAでは少なからず好中球減少を判い,Btkが好中球誘導などに関るサイトカイン産生などの単球/マクロファージに特有な機能発現に関与する可能性を示した.
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