研究概要 |
1.視床下部TRHの下垂体TSH産生細胞の分化、増殖に及ぼす影響 野生型ならびにノックアウト(KO)マウスにおける胎生期から生後下垂体TSH免疫性の変化ならびに血中T4の変化を測定した。胎生期17.5日では下垂体TSH染色性は両マウスにおいて認められず、生後5日目には染色性が確認されたが両者間で差は明らかではなかった。しかし、生後10日目、21日目、8週後にはKOマウスにおいて野生型に比べその染色性は明らかに低下していた。更に、下垂体TSHmRNAのNorthern b1ot解析の結果、TSH染色性の低下はTSH a1phaならびにbeta subunit mRNAの低下によることも判明した。TSH染色性に平行して生後0.5日、5日目の血中T4値には有意差を認めなかったが、10日、21日、8週後ではKOマウスのそれは野生型に比べ有意に低下していた。この生後10日目以降のKOマウスに認められた甲状腺機能低下症はTRHの補充にて正常化した。以上の成績より視床下部TRHは、胎生期下垂体TSH産生細胞の分化には不要であるが、生後10日目以降の正常甲状腺機能維持に必須であることが明らかとなった。 2.視床下部TRHのTSH、プロラクチン以外の下垂体ホルモンmRNAに対する影響 下垂体成長ホルモン(GH)mRNAレベルはKOマウスでは野生型に比し有意に低下していたが、これはT4補充にて正常化した。更に、性腺刺激ホルモン(LH,FSH)、propiome1anocortin mRNAレベルは両マウス間で差を認めなかった。以上の成績よりTRHは生後GH,LH,FSH,ACTH合成には直接関与していないことが示唆された。 3.視床下部TRHのプロラクチン分泌、合成に及ぼす影響 非授乳期の血中プロラクチンならび下垂体プロラクチン含量はKOマウスと野生型マウスにおいて有意差を認めなかった。しかしながら、KOマウスにおいてプロラクチンmRNA量は野生型に比し約60%に減少していたが、この減少はT4補充により正常化した。一方、授乳期マウスにおいては血中プロラクチンおよび下垂体プロラクチン含量は野生型に比し約50%減少しており、この減少はT4補充にても正常化しなかった。以上の成績より視床下部TRHは主に授乳期においてプロラクチン合成、分泌刺激ホルモンとして作用していることが明らかとなった。
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