研究概要 |
本研究においては,癌に対する腹腔鏡下手術の利点と問題点を明らかにするため,以下のごとく,炭酸ガスの生理機能におよぼす影響と,癌の発育・増殖・進展におよぼす影響について動物実験を中心に明らかにしてきた. 1.生理機能に及ぼす炭酸ガス気腹の影響(1)全身循環動態におよぼす炭酸ガス気腹の影響を豚気腹モデルで検討した.その結果,(1)気腹による末梢血管抵抗の増大のため,静脈還流が減少した.(2)腹腔内臓器血流が減少し代謝性アシドーシスへと傾くが、腹腔内ガス(CO2 vs Helium)で差を認めず腹腔内圧の上昇が原因と考えられた.(3)臨床研究として,気腹法とつり上げ法による腹腔鏡下胆嚢摘出術で術中循環動態を検討した.その結果,気腹下では心・腎血流量の低下をもたらしたが,気腹解除とともに改善した. (論文発表済)(4)肝・腎機能におよぼす炭酸ガス気腹の影響をラットモデルで検討した.その結果,(1)気腹下では血中Vasopressinが上昇し,乏尿へとつながるが,そのAntagonist(OPC-31260)の投与で乏尿を予防できた.(2)気腹下では門脈血流が低下し,Buffer Responseとして肝動脈血流が上昇した. (論文準備中)(5)全身免疫系におよぼす炭酸ガス気腹の影響について検討した.気腹下では,全身及び腹腔内の炎症性サイトカイン(IL-1beta,IL-6)の産生が一時的に抑制された. (論文投稿中) 2.癌の発育・増殖・進展に及ぼす影響(1)マウス気腹モデルを確立した. (論文発表済)(2)電顕にて気腹後の腹膜中皮細胞の変化を解析(ガス・圧・時間)し,開腹後と比較検討した. (論文準備中)(3)腹膜播種に及ぼす影響では,気腹群は開腹群と同様の腹膜播種の増悪が生じた. (論文準備中)(4)マウス尾静脈静注による血行性転移モデルで,気腹群は開腹群に比べ肺転移の減少を認めた.その際,サイトカイン(IL-6,TNF-a)の変動も少なく,外科侵襲が癌の進展に重要であることを示した.(論文投稿中)(5)マウス膝リンパ節転移モデルでリンパ節転移個数・重量とも気腹群は開腹群より少なかった. (論文準備中)(6)マウス気腹モデルにおいてヒアルロン酸の腹腔内投与は,癌創転移を増強した. (論文投稿中)(7)気腹により腹腔内ヒアルロン酸の誘導が生じた.その効果は開腹後よりも気腹後のほうが高度であった. (論文投稿中)(8)マウス気腹モデルでの癌創転移はインテグリン抗体やCD44抗体により抑制された. (論文準備中)
|