研究概要 |
本研究の主たる目的は,HVJ-リポソーム法を用いた,心筋細胞を標的とした遺伝子導入法の確立と心保護への応用である.平成10年度には,これまでに確立した経冠動脈的導入法を用いて,遺伝子導入による心筋賦活化および保護効果を検証した.まず,ラットの肥大心筋に対し,β-アドレナリンレセプター遺伝子を投与したところ,心筋におけるβアドレナリン作用薬に対する感受性の有意な向上と,それによる有意な心機能の上昇を示した.次に,ラット腹部異所性心移植モデルを用いた虚血再潅流心に対して,同じく経冠動脈的に肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子を導入した.その結果,左室拡張末期圧,dp/dt,冠動脈流量などを指標とする心機能は,コントロールに比し有意に改善し,虚血再潅流障害の抑制効果を認めた.これらの実績を踏まえ,平成11年度は臨床における心筋を標的とした遺伝子治療の可能性を検討するため,大動物モデルを用いて遺伝子導入実験をおこない,その有用性とともに安全性を評価した.左冠動脈結紮によるビーグル犬心筋梗塞モデルに対し,虚血領域にHGFを融合したHVJ-リポソームを直接注入し,4週後に虚血領域局所心機能と心筋血流量の有意な改善を示し,直接注入による心筋への遺伝子導入の可能性とその効果を確認した.以上より,HVJ-リポソーム法を用いた遺伝子導入の応用により,虚血再潅流心,不全心,あるいは冠動脈病変による虚血心に対する遺伝子治療の推進が可能であり,今後有力な治療戦略の一端を担い得ると考えられた.
|