研究概要 |
本研究は,マイクロベッセルビデオシステムで直径0.1mm以下の脳実質内細動脈の観察を可能にし,カリウムチャネルを介する血管弛緩反応に及ぼす麻酔薬の作用を検討することで,脳血管平滑筋細胞内のカルシウム調節機構の一つであるカリウムチャネルを介する血管反応性の特異性と麻酔薬がそれを修飾する機序を明らかにすることを目的とした. 厚さ250μmラット脳スライス標本中の脳実質内動脈(経10-30μm)の観察が可能となった.プロスタグランデインF2αで収縮させた脳実質内動脈でハロタン(0.5-2.0MAC)が脳血管を拡張させた.また,ATP感受性カリウムチャネル開口薬であるレブクロマカリムおよびcalcitonin generelated peptide(CGRP)も同様にこれらの脳血管を拡張させ,ATP感受性カリウムチャネル拮抗薬であるグリベンクラミドはこれら開口薬による弛緩反応を抑制した.局所麻酔薬リドカインは,プロスタグランデインF2αによる脳血管収縮を増強しなかったが,レブクロマカリムによる弛緩反応を抑制した.一方で,リドカインは一酸化窒素ドナーニトロプルシドによる弛緩反応は変化させなかった.以上より,揮発性麻酔薬ハロタンが脳実質内細動脈を弛緩させるのに対し,局所麻酔薬リドカインはこれらの動脈の血管弛緩反応を抑制することが明らかとなった.リドカインは特にATP感受性カリウムチャネルを介する血管弛緩反応を選択的に抑制する可能性があるものと考えられる.このことから,脳虚血時のように,ATP感受性カリウムチャネル開口により血管平滑筋細胞内カルシウム濃度が低下して血管が拡張することで脳血流を維持する機構を,麻酔薬が修飾する可能性が示唆される.
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