研究概要 |
義歯装着後に起こる疼痛の発生は義歯の適合,および咬合に起因する場合が多い.しかし,疼痛の診査法は手指による触診以外にないのが現状であり,疼痛部位を診断し,疼痛閾値を定量化する客観的方法が必要である.そこで顎堤粘膜の疼痛閾値を定量的に測定可能な装置を開発し,繰り返し測定による変動,経日的変動,加圧部位および術者の相違による変化について比較検討した. 疼痛閾値の繰り返し測定による変動,経日的変動の被験者は,健常有歯顎者で口蓋粘膜の解剖学的形態が正常であると判定した男性5名,女性5名を選択し,測定部位は切歯乳頭部,口蓋中央部の2部位に設定した.部位及び術者別の疼痛閾値については,男性3名,女性2名を選択し,測定部位は切歯乳頭部,口蓋の前方中央部,前方側方部,中央部,中央側方部,後方中央部,後方側方部の計10部位に設定した. その結果,下記の知見を得た. 1.繰り返し測定による変動,経日的変動は口蓋中央部に骨の膨隆が認められた2名の被験者を除き,小さく,安定していた. 2.疼痛閾値は個人差および部位による差が大きく,部位別の測定値を正常値として絶対化することはできない. 3.疼痛閾値は後方部より前方部,側方部より中央部のほうが大きな値を示した. 4.測定者間における測定値の変動は口蓋中央部を除き変動が小さく,部位別の疼痛閾値の変動も測定者にかかわらず同様な傾向を示した. 5.顎堤粘膜疼痛閾値計は,局所的な義歯のあたりの診査だけでなく,病態の相違をより明確に鑑別診断できる可能性がある.
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